打田十紀夫 Q&Aコーナー(2003/10/29 更新)

Q:打田さんはよくカポタストを用いるようですが、何かメリットがあるんでしょうか?


A:カポタストを付けると、まず第一に開放弦と押弦した弦の音のバランスが良くなります。開放弦も含めてすべてが押弦した状態になるわけですからね。全体的なサウンドのバランスを重視するフィンガースタイルの演奏には非常に効果的だと思います。また、フレット幅も狭くなり弦高もやや下がることになるので、弾きやすくもなります。ですから、どうしてもカポなしで弾かなければならない場合を除いて、ソロで弾くときはたいていカポ2でプレイするようにしています(カポ1だとポジション・マークの位置を勘違いしやすいので…)。それからカポを駆使できると、人とセッションするときに違うキーでプレイしてサウンドの幅を拡げることもできますよ。例えば、相棒がEブルースをカポなしで弾くなら、自分はカポ4でCのキーで弾くとか。キーが変わるとプレイのアイディアも変わるから、ユニークなセッションになるのです。
 カポタストも、いろんな種類のものが市販されていると思いますが、私の一番のお気に入りはShubb Capoです。シャブという名前がちょっと怪しい感じですが、ネックに合わせて圧力を微調整できるので、付けたときにチューニングに狂いが出にくく、またワンタッチで装着できるのも利点でしょう。

(※…カポタストに関しましては、2014年12月より、(有)久留米精工が開発した超軽量カポタスト「スタ☆カポ」を愛用しています。音抜けも最高の優れものの新発想のカポタストです。TABネットショップでもお取り扱いしています。)

Q:Shubb Capoは上から付けるのですか、下から付けるのですか?

A:何故かたまに訊かれますが、どちらからでも使いやすい方でいいと思いますよ。私は下から付けています。その方がネックの上側がスッキリして、左手の親指をネックの上から用いて押弦するときにジャマにならないからです。ちなみに、たしかライ・クーダーやロリー・ブロックらも同じように下から付けていたと思います。
 また、Kyser製のQuick Change Capoなどのようにネックの上に突き出た形状のものは、たまに親指を引っ掛けてしまうことがあり、私のように親指押弦を多用する方には不向きかも知れませんね。でも機能的に問題がないのであれば、どんな種類のカポでも相性のいいものを使えばいいと思います。

Q:練習するときに気を付けることってありますか?


A:まずゆっくりと弾くことを心がけてください。ちょっと弾けるようになると、ついつい速いテンポで弾こうとしてしまいます。自分が弾けるギリギリのところで弾くと、ニュアンスなど細かいところに気を配ることができないばかりか、全体的なリズム感が悪くなります。ゆっくり弾いて、それを自分の耳で聴きながら、正しいリズムを確認するようにしてください。ミスしやすい個所は、そこだけピックアップして重点的にゆっくりのテンポで練習して、通して弾くときはそこが弾けるスピードに合わせて弾くようにするのです。また、ある程度自信を持って弾けるようになった曲は、一度録音して聴き手にまわって聴くといいでしょう。弾きながら聴いているときには気付かなかった点に気付くと思います。

Q:サムピックは使った方がいいのでしょうか?


A:サムピックは必ずしも使わなければならないといった代物ではありません。使わないプレイヤーもたくさんいます。使う場合は、そのメリットとデメリットを意識した上で使用したいところです。私自身は、ゲイリー・デイヴィスやブラインド・ブレイクのラグタイム・ブルース・スタイルやマール・トラヴィス風のカントリー・フィンガースタイルなど、親指を多用する曲で用いるようにしています。サウンド的にも、弾きやすさの点でも適していると感じるからです。また私の場合、ライヴではサムピックを使用する頻度が高いです。その方がPAを通しての音作りがしやすいからです。それから、サムピックを使うときに注意しなければならないのは、親指のタッチをコントロールして他の指でピッキングする音とのバランスをうまく取るようにすることです。親指の音ばかり大きいような演奏は避けたいものです。

Q:サムピックを付けて弾いているのですが、弾いているうちにだんだんずれてきてしまいます。なんかいいアイディアはありませんか?


A:サム・ピックを多用する海外のギタリストを日本に呼んだときなどには、私もこのことをよく質問します。たいていは特別なことはやっておらず、サムピックのサイズとピッキングのタッチでずれないようにコントロールしているようです。ボブ・ブロズマンなどは、「ガチッ(!)ときつめのサムピックをはめているので、ハードに弾いてもずれないよ」と言っていました。あまりにタイトなサムピックは親指が痛いのではないかと思えるのですが、「演奏中は気合いが入っているので痛さを感じない」とのこと。“でも、演奏が終わったら痛いのでは”と尋ねたら、やはり「痛い」と言っていましたよ。うーん…。
 まずは自分の親指の太さに合ったものを選びましょう。プラスチック製のものなら熱を加えて形を整えることも可能です。あと、私独自のアイディアとしては、サムピックの内側(爪側)に滑り止めのゴムを張っていることです(写真)。指の腹があたる部分に滑り止めを張っている方もいらっしゃいますが、どちらかというと爪側で滑ることが多いと思いますよ。ゴムを張ってから滑る回数が少なくなりました。
 それからサムピックは、サイズの他に材質や厚さなどにも注意して選びましょう。これらはサウンドに影響するので非常に重要なポイントです。Fred Kelly社のSlick Pickやアーニーボール社のサムピック(旧タイプ)は、指へのフィット感や弦への当たりの点でいい感じです。それでも、親指で直接弾いている感じにより近いサムピックはないか、探し続けています。実はTABでは、あるプラスチック加工会社と共同で、サウンド、装着感ともに理想的なサムピックを研究開発中です。商品化できる日もそう遠くはないと思いますので、どうかご期待下さい!

(※…2004年4月に、私が監修した新発想のサムピック「TABスペシャル」が発売になりました。TABネットショップでもお取り扱いしています。是非お試しください!)

Q:フィンガーピックを付けて弾くと、どうもガチャガチャとノイズが多くなってしまいますが…。


A:フィンガーピックもサムピック同様、必ずしも使わなければならないものではありません。サムピックより使われる頻度は低いと思います。私の場合、今では12弦ギターを弾くときしか使いません。それでもギタリストによっては、そのヴィヴィッドなサウンドを自らの音楽表現にうまく取り入れています。さて、そのノイズですが、ピックが弦に当たるときに出てしまうもので、ある意味必ず出てしまう必要悪のようなところがあります。金属製のフィンガーピックが同じく金属製のしかも振動している弦に触れようものなら、どう考えてもノイズが出ます。それでも、フィンガーピックが正しいアングルで弦に当たるようにしっかりとしたピッキングができていれば、全体的なサウンドが大きくなりノイズはそれほど気にならなくなります。それと、先端部を少しだけ捻って曲げる(写真)ことによって、弦に当たる角度が補正されるので、クリアなサウンドになりノイズを軽減できます。
 プラスチック製のフィンガーピックはノイズが少ないですが、先の部分を曲げるのは金属製ほどたやすくありません。私も一時期プラスチック製を使っていたことがありました。その時は、火であぶって柔らかくして、それを曲げながら用意しておいた冷水につけるといった方法を取っていました。でも、ピックに火がついてアッという間に灰になってしまったりなかなか難しかったので、ある時期から熱湯に浸ける方法に切り換えました。柔らかくなったところで箸で拾い上げて形を変えながら冷水に浸けるのです。いずれの方法も火傷しそうになったり大変でした。金属製に換えてからはそういった苦労はなくなりました。ちなみに私が使っている金属製のフィンガーピックは、Kyser製のものです。

Q:打田さんはステファン・グロスマンにギターを教わったそうですが、ステファンはどんな人ですか?


A:音楽、そしてアコースティック・ギターを心から愛している、気さくないい人ですね。アコースティック・ギター音楽を広めようと、自らの録音・演奏活動の他にレコードやビデオのレーベルをやったり、教材を出版したり、とくかく長年に渡ってこの業界に貢献してきたんです。現在プロで活動されている方にも、ステファンの影響を受けた方は世界中にたくさんいますよ。彼がゲイリー・デイヴィスに教えてもらったように、私にも丁寧に教えてくれました。まあ、直接教わったのは、けっして長い期間ではないんですが、それ以前もそれ以降もレコードや教則テープなどを通して多くのことを教わりました。私の今の活動も多分にステファンの影響を受けています。(ステファンにレッスンを受ける若き日の打田−1986年頃)
 それにステファンは文化と歴史を大切にする人ですよ。昔こういったことがありました。ステファン宅に2回目におじゃましたときのことでした。“ライトニン・ホプキンスやマンス・リプスカムの映像を見せてあげようか。これ見てなよ”と秘蔵のVTRを見せてくれたのです。当時はまだ、今のようにその類のビデオが商品化される前で、伝説のブルースマンの映像など我々には見ることができなかった時代でした。ワクワクしながらテレビの前に座っていたのですが、黒人のパレードや農作業の光景などが続くドキュメンタリー・タッチのフィルムでなかなかブルースマンの映像が出てこないんです。それでステファンのいないときにテープを早送りしていたら、見つかっちゃって、“ノー!! 何やっているんだ、貴重な映像だぞ! ちゃんと全部見ないとダメじゃないか!”って怒られちゃいました。単に上辺のテクニックだけじゃない、音楽の本質や歴史的背景を大切にする人だなあと思いましたね。

Q:打田さんが使われている‘ステファン・グロスマン式のタブ譜’のメリットは?


A:ステファン式のタブ譜の特徴は、タブ譜の横にピッキングする右手の指を示すラインが付いていることです。ラインが下向きに伸びている音は右手の親指で、ラインが上向きに伸びている音は人差し指〜薬指側でピッキングすることを表しています(サンプル)フィンガーピッキングでは、親指で弾くか、人差し指〜薬指でピッキングするかは、サウンドに影響する重要なポイントですので、この表記法は非常に親切かつ有効な表記法だと思います。ステファンは、レヴァランド・ゲイリー・デイヴィスにギターを習っていたときにとっさのメモとしてこの表記法を編み出したそうです。なにしろゲイリー・デイヴィスは盲目でしたので、当然楽譜などを用いてレッスンしたわけではありません。親指と人差し指の2フィンガーでプレイしたデイヴィスのスタイルをメモるには、最適の記譜法だったのでしょうね。
 市販の音楽雑誌や楽譜集では、タブ譜側にも5線譜と同じリズム譜の符割が付けられているものが大半ですが、符割自体はそもそも5線譜側に付いていますので、タブ譜側には別の情報を記した方が効率はいいと思います。私も、出版物によっては出版社の意向で一般的な記譜法を用いることもありますが、たいていの楽譜集や教則本ではステファン式のタブ譜を用いています。
 また、ステファン式タブ譜のもうひとつの特徴は、数字を線と線の間のスペースに記すことです。これも巷では、6本の線の上に数字を載せる表記が多いのですが、小さい楽譜では0、3、6、8、9などの数字の区別が付きにくいこともあります。スペースに表記すれば、そんな間違いもなくなるはずです。ただ、これも出版社によっては6線タブ譜(すなわち6線の上に数字を載せる書式)を採用しなければならない場合もあります。そんなときに最近では、タブ譜の数字で6本の線を分断させるように浄書して入稿するようにしています(サンプル)。これによって、数字の読み間違えが少なくなると思います。

Q:打田さんのギターはかなり弦高を下げていると聞きましたが、どのくらいなのでしょうか?


A:楽器屋さんはたいてい弦高を下げることに消極的です。「低くしてください」と頼んでも、ある程度までしかやってくれずに「これ以上下げるとビビリます」と言われることが多いと思います。でも私は、ピッキングのしかたでそうビビらなく弾けるのではないかと、常日頃思っていました。また、曲調によってはビビリ気味のベース音を効果的に取り入れることもあるので、ある時いきつけのギター屋さんで「ビビッてもいいから弦高を思いきって下げてみてください」と頼みました。これが私の超低弦高、いわゆる“打田セッティング”のきっかけです。
 でも実は正直なところ、この“打田セッティング”が数値でどのくらいの弦高になっているのか、ある時期まで私自身はっきりは分からなかったんです(左手で弦を押さえた感じでは分かっていましたが)。計った人が言うには、フレットの金属部分突起の上から6弦までの間隔が「12フレットで2ミリ」らしいです。本当かなと自分でも計ってみましたが、だいたいそんなところでした。1弦側に行くに従って、弦高は6弦よりやや低くなります。ただ、弦高を低くしたせいでメロディを弾く高音弦がつまった音にならないよう、1、2弦にミディアム・ゲージ(3〜6弦はライト)を張るようになりました(現在1弦のみミディアムです)。
 ちなみに、この“打田セッティング”は通常のアコースティック・ギターのみで、ボトルネック・スライド奏法用のナショナル・リゾネーター・ギターは反対に高めの弦高にセッティングしてあります。スライド・プレイでは押弦の比率が低いし、また弦高が高い方が音を伸ばすことができるからです。
 弦のゲージや弦高の調整などは、プレイ・スタイルやピッキングの方法などの違いもありますので、弾き手にとっての最適なセッティングは当然違ってくると思います。私の方法はあくまで参考にしていただいて、皆さんにとっての“ベスト”なセッティングが見つかることをお祈りします。

Q:打田さんが使っている弦とゲージを教えてください。


A:弦は、昔からそれこそ何十種類も試してきました。ダック・ベイカーが、「スティールの弦はどれもあまり差がないよ」と言っていましたが、「我が社のものが最高!」とメーカーが謳っているほどの如実な差は、あまり感じられないと思います。ゲージは、「弦高」に関しての上の質問のアンサーで書いたような理由からちょっと変わった組合せになっていて、6弦から、013・016・025w・032w・042w・054wです。基本的に、1弦がミディアム、2〜6弦がライトですが、実際には一般的なライトより、3弦と6弦が少し太くなっています。以前は2弦もミディアム(017)だったのですが、2弦はチョーキングを多用するので016に変更しました。巻弦はフォスファー・ブロンズです。この組合せのゲージは特別に組んでもらっています。
 ナショナル・リゾネーター・ギターには、ミディアム・ゲージ(フォスファー・ブロンズ)を張っています。6弦から、013・017・026w・036w・046w・056wの組合せです。アミスターのリゾネーター・ギターには、同じくミディアム・ゲージですが、ピックアップの関係上、ニッケル弦を使っています。
 12弦ギターには、12弦用のフォスファー・ブロンズ弦ミディアム・ゲージを張っています。12弦用のミディアムはあまり売られていませんが、1音もしくは1音半下げて張るとテンションもやや弱くなって押さえやすくなり、音も太くなって非常にいい感じです。また、偶数弦をピックアップすると、3〜6弦を1オクターブ高く合わせるナッシュビル・チューニング用のゲージが出来上がります。えっ、残りの奇数弦はどうするって? ご心配なく。奇数弦は、通常の6弦用ライト・ゲージになるんです。無駄が出ないでしょ。
 弦に関しては、これからもいろんなメーカーからいろんな種類のものが登場すると思います。今後もチェックしていこうと思います。

(※…2010年1月現在、6弦のアコースティック・ギターには、米国オハイオ州アクロンにある「SIT」というメーカーで、シグニチャー・セットを組んでもらっています。このメーカーの弦は、チューニングに最も影響を与えるボールエンドのネジリ部分の滑りを防止するSIT独自のツイストロック加工がされていて、チューニングの安定性に定評があります<SIT=Stay-In-Tune>TABネットショップでもお取り扱いしています。一度お試しください。)

Q:コーティング弦はフィンガーピッキングに適しているんでしょうか?


A:エリクサの登場で一躍脚光を浴びるようになったコーティング弦。今ではダダリオやマーティンも独自の製法でコーティング弦を発売しています。私自身はコーティング弦を使わないのであまりコメントできませんが、ピック弾きよりは指弾きの方に適しているのではないかと思います。ピックでガンガン弾きすぎてコーティングがボロボロに剥がれているギターを見たことがありますが、見た目にもあまりきれいなものではありませんでした。あと、コーティングされた弦の音は、通常の弦よりブライト感にやや欠けるので、好き嫌いがはっきりする弦かもしれませんね。実は私、テイラー・ギターを最初に手にしたときエリクサが張ってあったのですが、音や感触に何か違和感を覚え、すぐ張り替えてしまった過去があるのです(今思えば高い弦なのでもったいなかったなあ…)。ただコーティング弦は持ちがいいので、汗かき症で弦がすぐ死んでしまう人とかにはいいのではないでしょうか。ちなみに、ピエール・ベンスーザンはエリクサにぞっこんのひとりです。TABで2001年の秋にピエールを日本に招いてツアーしたとき、「エリクサは今までで最高の弦だね。ジャパン・ツアーの後にスケジュールが入っているスイス・ツアーには、このまま張り替えないで行くよ」と言っていました。あんなに弾きまくっていたのに、まだ死んでないとはすごいなあと思いましたね。

Q:ギターの抱え方ですが、ギターは右膝、左膝のどちらに載せて抱えた方がいいのでしょうか?(右利きの場合)


A:ギターが安定するのであれば、どちらでも構いません。これは特に右膝派の人に多い傾向ですが、左手をネックから話したときにギターが不安定になる方がいらっしゃいます。どちらの膝に載せたにしても、指板上で自由なフィンガリングを行うために、ギターが安定していることを確認してください。
 ちなみに私は現在はギターを左膝に載せて弾いていますが、ギターを始めてからある時期までは右膝に載せていました。ところが重い金属ボディのナショナル・リゾネーター・ギターを使うようになって、左膝に載せた方がギターが安定することに気づきました。しばらくの間は、通常のアコースティック・ギターは右膝、ナショナルは左膝というフォームで弾いていたのですが、ライヴにおいてギターを換えるたびに

“左膝に載せるのはクラシック式で、ブルースでは右膝に載せる”と思っている方がいらっしゃいますが、けっしてそんなことはなく、ブラインド・ウィリー・マクテルやブッカ・ホワイトら偉大なカントリー・ブルースマン達にも左膝派のギタリストが多数いました。


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